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【 2 】 霧島の父親の運転するエルグランドは、京都タワーの前、東本願寺を通り過ぎ、鳥丸五条交差点から五条通を西に進んだ。鴨川に架かる五条大橋を渡り、景観を乱さないために茶色になっているデイリーストアの前も素通り。東山郵便局前の交差点を曲がって少し行った所で車は止まり、バッグしてガレージに入った。霧島の家はガレージを含んだ二階建てだったが、ガレージを含んでいても狭さは感じられなかった。久々に対面した霧島の母親にも挨拶を済ませると、二階にある霧島の部屋に入った。 「で、とうすんだ、多村」 多村と和田が荷物を置くとすぐに霧島が言った。その言葉の矛先は多村に向けられていたが、その意味は和田がいるがどうするんだ、という意味に違いない。 「散歩でもしねぇ? ここらへん案内してくれよ」 多村の言葉に含んだ意味を読み取ったのか、霧島は「いいよ」、と言って頷き、椅子から立ち上がった。 霧島の家は妙願寺の裏手にあった。しかし、「あそこはなんもぇよ」などと失礼なことを言って先を急いだ。いくらなんでも、そこまでして急ぐ必要はないのに、と多村は思ったが、霧島の気遣いはうれしかった。 三つの道が交わり、三角形の中央分離帯がある角を左、つまり東に曲がり、次の四つ角まで歩いた。 「ほら、あれがオレの中学」 そう言って霧島は建物を指差したが、どうやらそれはプールのようで、その向こうに校舎が聳えていた。 その角を左に曲がると、整備した歩道の先に門が見えた。先を歩いていた霧島の目が、ここだ、と合図した。ここが六波羅光寺か。多村はそう心の中で呟くと、もうすでにそわそわしている自分がいるのを感じた。 六波羅蜜寺の近く。そうあいつが言っていたからだ。 その寺は決して大きな所ではなかったが、質素で穏やかな雰囲気の場所だった。本堂には入場料がいるのだと霧島が二人に伝え、無料の本堂外の見学を始めた。そこで和田がトイレに行ったのを見計らって、霧島が核心を突いた。 「多村、さっきの四つ角を左に曲がって六波羅裏門通を少し行ったら左手に大きめの道がある。そこに入って真っ直ぐに行って、二つ目の曲がり角かな。曲がった突き当たり」 それがなにを示しているか、その説明は不要だった。「霧島……」と呟くと、霧島は「行け」と言った。 「行けよ。オレが適当に取り繕ってやる」 「お、お前はどうすんだよ」 霧島はふっと笑って空を見上げた。少し曇り気味で、もしかすると小雨が降り出すかもしない。 「福原が会いたいのはお前なんだ。オレじゃない。オレは親友を失ったけど、お前は……」 そこで霧島は言葉を切った。 「親友だって大切だろ。オレとお前と村上は、福原っていう大切な思い出を共有してんだ。会ってやってくれよ」 「お前、バカが付くほどお人好しなのは変わってねぇな」 そう言った霧島はため息を付きながらも微笑んでいた。 「分かったよ。オレも後から行く。だから早く行け。ほら、早く」 霧島にそう背中を押されて多村は駆け出した。 六波羅蜜寺を飛び出すと、霧島が言った通りに六波羅裏門道を走り、その中ほどで左に曲がった。。そして北に走りながら、曲がり角の数を数えて思った。こんな道をあいつが駆け回っていたのだろうか、あの笑顔を振りまきながら。 和風の家が建ち並ぶ中、二つ目の曲がり角を曲がった瞬間に、多村の視界にセーラー服の制服を着たポニーテールの少女の姿が飛び込んできた。 「む、村上……」 「多村君?」 そこには村上がいた。驚きを隠せないその表情は変わっていなかった。だが、幾分体は細くなってるようだった。 「来るんだったら、来る言うてくれればよかったのに」 霧島のことだから、村上には話しているだろうと思っていたが、どうやらそうではいようだ。「ごめん」と一言だけ言うと、村上はことを察したようで、突き当たりの家へとゆっくり足を踏み出し、指差した。 「あれ、渚の家。あいつ、ずっと待ってたんよ」 多村は返す言葉もなく、その家を見た。二階建ての一戸建てで、小さな庭がある和風の家だった。ここで福原が生活していたのだ。しかし、ここに渚はいない。待ってなんていない。 |