第四章





【 5 】

 十二月になり、雪がちらつき始めた。多村は金曜の夜だったが、病院に急いでいた。渚がインフルエンザにかかったという知らせを聞いたのはついさっきのことで、明日の朝に行けばいいという気持ちが吹き飛んだ。親には、友達の所に泊まるから、としか言っていない。

 なぜインフルエンザにかかったんだ。渚はインフルエンザの予防注射を受けていたし、薬も点滴していた。なぜインフルエンザにかかったりするんだ。そう思いながら、ゆっくりと扉を開けた。消灯時間の近い病棟は、電気はついているものの、もの静かだった。

 渚は、ビニールシートの中で全身から汗をかき、呼吸を荒げていた。一つしかない肺でインフルエンザになどかかったら、どれだけ呼吸が辛くなるのだろうか。医者がなにかの注射をした様子で、その器具を片付けながら美智子さんになにかを告げた。その後、扉へ来る途中で多村に頭を下げ、無表情のまま立ち去って行った。

「シュウ……」

 かすかにそう聞こえてベッドに駈け寄った。

「渚……」

「うち……まだ生きてる」

 多村は、苦しそうに、しかし必死に笑みを作る渚に、「うん」と答えるしかなかった。防菌のためのビニールシートがあるために、その白い手を握り締めてやることもてきない。

「なぁ、聞いて……うち、考えたんやけど……運命って、やっぱりあるみたい」

 渚はそう言ってゆっくりと拳を握った。その時、病室に霧島が駆け込んできた。続いて村上も制服姿で飛び込んで来た。京都からどうやって来たのかは知らなかったが、福原の言葉は続いた。

「人間って……みんないつか死んでまう……けど死んでええわけない……そやったらなんで生きてるの……生きるってどんなことなんか……そんなん答えなんかないんよ」

 霧島が多村の横に立ち、同じように渚の言葉に耳を傾けていた。

「ただな、うちらが生きとって苦しいこともある。けど……楽しいこともあるんや。うちが……秋平や、霧島くんや、志保と出会うたんがそうや。そうやって、色んな人と出会って、苦しんだり……喜んだり、哀しんだり、怒ったり、笑ったり、することが、生きてる意味の……一つって思う」

 多村は自分の体が熱くなるのを感じた。なにか言いたいのに、なにも言えない。笑おうと思うのに笑えない。もどかしい思いが自分の中でどうにもならないまま膨らんでいった。

「みんなに会えてよかった……おおきに」

 福原がそう言って笑った。今まで見た中で最も輝いた表情だった。





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