第五章





【 1 】

「終わったな」

 柄にもなくしみじみとそう言った和田に、「終わってねぇよ」と多村は言った。

 卒業式が終わり、多村たちは運動場にいた。生徒たちは写真を取ったり、先生と話したり、卒業アルバムにサインを求めていたりした。

「そう。こっから始まるんだよね、人生って奴はよ。そうだろ、多村君」

 工藤が多村の肩を叩いた。多村は「なに臭いこと言ってんだ」とその手を振り払り払った。この二人とは、どうやら腐れ縁で結ばれているようだ。一生の親友になるかもしれない。

「ほんと、臭いねぇ……どうにかならないの? そういうとこ」

 永井が工藤をそうおちょくった。その横から、「多分、どうにもならないんだろ」と玉田。工藤と永井に進展があるかどうかは知らないが、鈍感な工藤に、押しのない永井だから、なにかない限り進展はないだろう。

 そんなやり取りを見ていて、多村はいいクラスだったな、と思い起こした。中学最後のクラスがこいつらと一緒で良かった。そう思った次の瞬間、「たーむらっ!」という弾んだ声と共に気配が後ろに迫った。反射的に避けたが、間に合わず、ファイルに頭をはたかれていた。

「ナイス」と永井。玉田も工藤も和田も声を上げて笑っていた。どうやらみんな気付いて引き付けていたらしい。最後までこれかよ、と思いながら自分をはたいた主、月原へと顔を向けた。

「卒業式の後のしみじみした中でさあ、人を殴る奴がいるか?」

「さぁね」

 月原はそう言ってファイルを多村に手渡した。

「にしても、終わったーって感じ。もう会うこともないだろうし」

 玉田が空を見上げる。

「なに言ってんだよ? また明日、ここで会うんだろ。みんなで」

 県立高校の合否発表は、明日その学校で行われる。そして、その合格者が、もう一度この体育館に集まるのだ。裏を返せば、その人の合否が分かってしまう。

 多村の言葉を聞いて表情が曇ったのは、月原だった。しかし、ファイルを鞄にしまった多村は笑った。

「心配しなくても、お前を落としたら後が怖いから、絶対受かってるって」

 弾かれたように永井と玉田が笑い出し、工藤と和田は必死に笑いを堪えている。多村は月原に睨まれても微笑みつづけた。

「お前なら大丈夫。だから、そろそろ帰ろう」

 多村は工藤たちを見た。「そうだな」と工藤たちは言って、校門に向かった。多村もそれについて歩き出すと、後ろから頭を小突かれた。「ありがとっ」と囁きながら、月原がそのまま多村を追い越し玉田と永井の間に入って行った。





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