プロローグ





【 夢で見たあの日 】

「渚……」

小さい声で呼びかけた。答えるわけがないと分かっていてもそれしかできることがなく。もう一度、祈るように、「渚」と呟いた。渚の手は暖かく、それを握る自分の手が震えている。

「渚」

そう言うと、震える手に少し圧力を感じた。

「しゅう……」

 かすかに聞こえた声にならない声。

 その唇の動きと、薄く開いた瞼に後ろがざわめくのが聞こえたが、すぐに静かになった。

「なに?」

「あいしてる」

 そう言って、微笑むと渚は瞼を伏せた。目じりからすっと細い涙が滑った。

「渚、ありがとう」

 多村は込み上がってくる様々な思いを抑え、そう言った。

 嘘かと、幻かと思った。でも、確かに渚は今自分の名を呼んで、そして「あいしてる」と言った。もう意識がもどるはずないのに、彼女はもう一度だけ、自分に会いにきた。自分にあいしてると伝えるために、もう一度だけ戻ってきてくれた。ただ、それだけのために。





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