人類が宇宙に進出して数世紀。
今だ人類は真の指導者を見つけられず、
数々の戦いに血を流してきた。
そして幾百億の人類の中から
我こそは真なる指導者と名を上げた者達がいた。
――――
新たな抗争。Mobile Suit Tacticsの始まりである。


機動戦士ガンダム外伝
Mobile Suit Tactics
       presents bycherry
Act W
プルツー

ゲルググのライフルから発せられるビームが漆黒の闇を切り裂き、
一つの赤いMSを狙う。
 昆虫を模した頭部と、それに合わせた大きな流線型の体格。
クィンマンサと呼ばれる大型MSは、
放たれたビームを軽く動かして避けると、
後部スカートに設置されたファンネルを射出する。
ファンネルは不規則な動きでゲルググへと近づき、
回避運動をするゲルググを狙ってビームを撃つ。
ランドセルに直撃したゲルググは推進剤に引火したのか、
大きな爆発を起こした。

 突然電子音が鳴り、モニターがブラックアウトする。
「シュミレーター終了!全員プルツー殿に敬礼!!」

 訓練用のシュミレーター室に設置された
シュミレーター用のコクピットのハッチが開き、
最後まで戦っていた兵士が、上官に呼ばれて兵士達の列に並ぶ。
 ワンテンポ遅れて、コクピットから出てきた少女に、
猫派の軍服を着込んだ何人もの兵士達が一斉に敬礼する。
 少女の髪の毛は茶髪というより、オレンジに近い。
瞳は猫のように鋭い目つきだが、その中にも優しさが残る。
全体的には可愛らしさが強調された少女である。
「あらあら・・・全員で取り囲んで、
   2分ももってないじゃない。
   プルツーちゃんが強いのか、それとも・・・」

 シュミレーターを黙って観戦していた紅 理朱が、
兵士達の散々たる結果を見て呆れた声を出す。
「でも、皆良く頑張ってたよ〜。
   最後の曹長さんだって、二回もファンネル避けたし〜」
「は、はっ!勿体無いお言葉、ありがとうございます!」

 プルツーと呼ばれた少女に褒められ、
曹長は嬉しさで震えた言葉を返した。
数字だけ聞くと褒められた物ではないのだが。
「さ、レクリエーションはこれで終わりにして、
   早く猫神様っていうの見せてよ」

 はしゃぎながら、プルツーは急かす様に紅の背中を押す。
こういう所はまだ子供らしくて可愛いのだが、
その撃墜数と操縦能力は圧倒的である。
「再度敬礼っ!!」

 プルツーに押されて
シュミレーター室を出て行く紅を見送りながら、
兵士達は再度敬礼をした。
 プルツーと紅が出て行くの確認すると、
大きなため息と上官の悲しみに満ちた叫びが
シュミレーター室から発せられていた。

 ここは新生猫派の宇宙要塞である。
 先日海賊によって破壊された第二MSデッキに代わって、
猫神様は実験場にて安置されており、
プルツーと紅はその実験場へと足を進めていた。
「えーーー!!イヴァンゲル盗られちゃったのーーー!?」

 実験場へと続く廊下で、
進めていた足を止めてプルツーは叫んだ。
「いや〜〜、実は海賊の仲間も侵入してて、
   MSと一緒に盗まれちゃったのよ〜」

 かゆくも無いのに人差し指で自分の頬を掻く紅に、
プルツーは口に空気を含んで膨らませて見せた。
「ネオぷるぷると新生猫派の友好の証として、
   建造したんでしょ?
   こんなんじゃ同盟破棄されちゃうよ?」

―――ネオぷるぷる―――
現在新生猫派と同盟を組んでいる勢力である。
規模自体は大きくないものの、
兵士一人一人が高い操縦能力を持つ、
少数精鋭の勢力である。
「できたって言うから急いで地球から出てきたのに〜」
「まぁ、いいでしょ。故意じゃなかったんだし。」

 言いながら足を進め始めた紅を、早足でプルツーは追いかける。
「じゃあさ、
   その代わりに補給物資をコンテナ30個分ってのは?」
「だ〜め。そっちのリーダーにちゃんと話つけるから、
   それまで――――
   あ、ここ、ここ。」

 話しながら廊下を進むこと10分弱。
ようやく実験場へと辿り着く。
紅は胸のポケットからIDカードを取り出して、ドアのロックを開けた。
 自動ドアが開くと、
そこには紅い装甲で身を包んだMSが直立していた。
猫神様である。
「かわいい〜〜♪」
「・・・・・・・・は?」

 猫神様を見上げたプルツーが、
発した最初の一言に紅はあ然とした。
一流のパイロットに褒められるのは嬉しいが、
どうも美的観点が違う。
「ふ、普通違う言い方っていうか・・・
   言う事間違ってない?」
「さぁ・・?生まれも育ちもアクシズだから」

 長い間紅はプルツーと付き合ってはいるが、
時々プルツーの発する
意味不明な発言にはまだ慣れていないようだった。
「と、取り合えず猫神様動かしてあげるから、
   どこかで見物してて」

 そう言って紅は猫神様の足元まで近寄り、
ワイヤーを垂らす。
だが、その瞬間猫神様の核融合エンジンの重低音が
実験場全体に鳴り響き、その巨大な身体を動かし始めた。

「な、何!?誰か乗ってるの!?」

 拘束用のダンパーを外そうとする猫神様から、
紅は走って遠ざかり、
壁に取り付けてある通信機で管理室へと連絡を入れる。
『実験場には誰も入れてませんよ!』

 開発陣が管理室から答える。
その間にも猫神様は拘束器具を振り払い、
MS用のハッチへと向かう。
「だったら、何故動いてるのよ!」
『パイロットが乗っていないのであれば・・・・
   猫神様が暴走しているとしか・・・・・』

 猫神様がハッチを無茶苦茶に殴って切れ目を入れ、
その間にマニュピレーターを突っ込むと
猫神様が通れるぐらいの大きさにこじ開けた。
金属の軋む音が実験場に響き渡る。
「私がクィン・マンサで止める!」

 その事態を目の当たりにして、
プルツーがそう言って実験室から駆け足で出て行く。
「ちょっ・・・プルツーちゃん!?
   ・・・・私のナイチンゲールを用意させて!!
   ゲルググ隊にもスクランブル要請!」

 紅も慌てて通信機を放り出すと、
全速力でプルツーの後を追った。

 MSデッキに紅が辿り着いた頃には、
プルツーは愛機である赤いクィン・マンサへ搭乗し、
格納庫から出る所だった。
 紅はワイヤーをナイチンゲールへと引っ掛けると、
コクピットへと滑り込んだ。
連絡が既に伝わっているのか、
紅のナイチンゲールにはもう既にエンジンが点火されている。
 不意にナイチンゲールのコクピットに通信が掛かってくる。
『紅様、現在猫神様はハッチから宇宙空間へと移動。
   ゲルググ隊と交戦しております。』
「交戦って・・・壊してないでしょうね!?」
『むしろゲルググ隊が一方的にやられています。
   こちらから位置を送りますから、
   急いで猫神様のもとへ向かって下さい。』

 通信機を通しての会話が終わる時、
操縦桿横のサブモニターに周辺の地図が表示される。
「これと同じ物をプルツーちゃんに送って!」
『了解しました。』

 紅はスロットルレバーを力強く押すと、
スラスター全開で宇宙要塞を飛び出した。

 線状のビームと幾つかの爆発を
メインモニターの奥で見つけると、
プルツーはそれに向かってクィン・マンサを動かした。
 当然機体速度と比例し、
その分だけのGがプルツーに圧し掛かる。
だが、それを我慢しながらプルツーはさらに機体速度を上げた。
 肉眼で猫神様が確認できる位まで距離を詰める
と、突然ゲルググ隊の会話が通信機へと入ってくる。
『くっ!少尉、狙われてます!!』

 猫神様の体当たりを、
バーニアを吹かして避けきる事に成功した
ゲルググマリーネのパイロットは、
方向転換してもう一度体当たりを仕掛けようとする猫神様を見て、
隊長機―――ナイチンゲールのパイロットへと叫んだ。
 よく聞けばプルツーとのシュミレーションで、
クィン・マンサのファンネルを二回避けた曹長の声である。
『落ち着け!100機落とすってのは嘘っぱちか!!』

 ビームマシンガンで牽制しながら、
少尉のナイチンゲールが
猫神様と曹長のゲルググの間に入ろうとする。
 だが猫神様はスピードを落とさず、
間に入ったナイチンゲールに拳を向けた。
「ファンネル!!」

 瞬間、プルツーは猫神様に向かって叫んだ。
それに呼応するように背中に装備された
スカート部分から幾つかのファンネルが射出され、
猫神様の周りを挑発するようにまとわりつく。
『ファンネル!?プルツー殿か!』

 少尉が上げた声は少し震えていた。
猫神様をたった二機で相手していたのだ。
多少なりとも恐怖は感じていたのだろう。
「ここは下がって。私が相手をする!」
『了解です!お気をつけて!』

 猫神様がファンネルに気を取られている隙に、
ナイチンゲールとゲルググは要塞へと方向を変えた。
 だが、猫神様はファンネルを鷲掴みにして握り潰すと、
二機が向かった方向へと機体を動かした。
 高い推進力を持つ猫神様は容易くゲルググ隊に近づくだろう。
「ここから先は、
   行かせないって言ってんのよ!!」

 猫神様の行動を察知し、操縦桿をとっさに動かしてプルツーは、
クィン・マンサを猫神様に突進させた。
 突進された勢いで、
後方に投げ飛ばされようとする猫神様の腕を掴んで、
プルツーは機体の胸が接触する程まで、猫神様を引き寄せた。
「貴方の戦う相手は犬派でしょ?あの人達じゃないの。」

 猫神様をなだめる様にプルツーは声をかける。
そしてクィン・マンサの余ったマニュピレーターで
猫神様の肩を掴んだ。
 だが、猫神様はスラスターを全開にし、
クィン・マンサに力比べを挑んだ。
猫神様の推進力の全てが、クィン・マンサへとぶつけられる。
 負けじとプルツーはクィン・マンサの
スロットルを最大に引き上げた。
だが、それでも猫神様の
勢いを殺しきれず、少しずつ後退する。
「大人しく・・・しなさい!!」

 プルツーの叱咤と共にクィン・マンサは
猫神様の肩に掛けていたマニュピレーターを放し、
猫神様の頭部を平手打ちする。
 普通の機体ならば、首ごと頭部がもげるところだが、
流石に猫神様はそのような平手打ちは利かない。
だが、突然猫神様は暴れるのを止める。
 不審に思いながらプルツーは計器をみると、
機体の温度が上昇しているのがわかった。
 プルツーは改めてサーマルセンサーで猫神様を見る。
すると異常なほど猫神様の機体温度が上がっている事が分かった。
おそらくここまでの距離を全速力で移動したり、
クィン・マンサと力比べをやった為、
オーバーヒートを起こして内部の
精密機械が故障を起こしたのだろう。
 プルツーが行った説得のおかげか、
猫神様は回収部隊により、
無事宇宙要塞へと戻されたのであった。

『プルツーちゃん、大丈夫〜〜?』

 プルツーが宇宙要塞へと引き返している途中、
紅の声が通信機を通してクィン・マンサのコクピットに伝わる。
それに伴ってメインモニターに紅いナイチンゲールの姿が映りこむ。
 どうやら迎えに来てくれたらしい。
「うん、大丈夫。それにしても猫神様って強いね〜。
   私―――」

 ―――欲しくなっちゃった。
と口にしようとした瞬間、コクピットに電子音が鳴り響く。
 高熱の猫神様に長く接触していたせいか、
クィン・マンサの精密機械にも支障が来ていたらしく、
計器類が紅く発光し、電子音がその事を知らせていた。
『どしたの?』

 疑問符を浮かべて紅が問いかけてくる。
「ううん。何でもない。」

 当たり障りの無い言葉を並べて、
プルツーは紅の問いかけを適当に逸らした。
(そっか、私にはこの子がいるもんね。)

 嫉妬するかのようにしつこく鳴り響く電子音を聞きながら、
プルツーはコクピットで一人納得した。

戻るの〜